キリムについて/歴史


キリムは、トルコ語で平織の敷物のことを意味します。

現存する最古のキリムは13世紀初頭のものと推定されています
が、厳しい自然条件のなか遊牧生活をしていた人々にとって、羊毛で制作された布や敷物は生活必需品であったはず、
それよりはるか以前に、キリムが制作され始めたことは容易に推測されます。

現在も発掘調査が続けられている世界最古の集落のひとつ、コンヤにあるチャタルホユック遺跡(紀元前7世紀ころ)の壁画 には、キリムのモチーフとそっくりの幾何学的に抽象化された図柄が描かれています。
キリムを平織の毛織物として解釈するならば、この頃、生活必需品として布が制作されていたのは間違いないでしょう。
敷物には、羊や山羊の毛皮をそのまま使用していたとの説が有力です。

セルジュク・トルコ時代には、キリムが単なる実用品としてではなく、生活を彩る室内装飾品として発展し制作され始めたと言われて います。十字軍が持ち帰った、スルタンや当時の富裕層の為に織られた美しい布や敷物は、ヨーロッパの人々をも魅了しました。

キリムの最盛期は、なんといってもオスマン帝国の時代でしょう。
富裕層やスルタンの為に制作された絢爛豪華な布はこの時代に最高峰を迎えます。また、遊牧民の生活必需品として織られ続けてきた布や敷物、 袋類も、草木染の美しい色糸でさまざまな装飾が施されるようになりました。
BEREKETのキリムのほとんどは、オスマン帝国後期に制作されたものです。
この時代の美しいキリムの数々は、博物館やカタログ本などで見ることができます。

オスマン帝国崩壊後、近代化の波がトルコにも押し寄せ、人々の生活も激変しました。
19世紀終わり頃、イギリスで発見された合成染料がトルコに伝わり、以後、手間暇のかかる草木染は衰退の一途を辿り、 手紡ぎされた糸の代わりに工場大量生産された糸がとってかわりました。

しかし近年、歳月とともにますます輝きを増す草木染の美しさが見直され、1980年代に興ったドバック・プロジェクトを筆頭に、 各地で伝統を見直す機運が高まり、手紡ぎ糸を使用し、昔ながらの手法で織られたキリムが制作されています。


キリムの材質


キリムは、遊牧民が家畜として飼っていた羊や山羊、ラクダ等の動物の毛を利用し、生活必需品である敷物や布を制作しはじめたのが、 そもそもの始まりです。後に一部コットンも使われるようになりましたが、大部分は羊毛が使用されています。


キリムの織りの種類


経糸と緯糸が交互に見える織

*平織
経糸と緯糸が交互に見える最もシンプルな構造の織。実用品として使用する、ソフレ(食卓用キリム)やペルデ(間仕切りやカヴァーとして 使用されていた薄手のキリム)によく見られる。

緯糸が表面に見える織

*綴織/スリットタペストリー
経糸を覆うように緯糸を折り返し織り目を詰め、緯糸で模様を織り出していく技法。殆どのキリムは綴織の技法で制作 されています。色糸を替えるときデザインの境目が垂直になるとスリット(穴)ができます。垂直部分が長いと穴も 大きくなってしまうため、図案は水平と斜めの線で構成したものがベースになります。

ブロケイド/ジジム・ジリなど

表面から見ると刺繍のようですが地織を織り進めながら、指で模様用の色糸をかけていく技法で制作された織物。 織り手は裏側から、糸を指にかけ、経糸の後ろ前へと交互にインターレースしていきます。最近、遊牧民の激減に伴い、 ブロケイドの技術は失われつつあります。古いカバーや保存袋に美しいブロケイドを見ることができます。

スマック

経糸に色糸を巻きつけ模様を織り出していく技法。1,2本の経糸に色糸を巻き、 図案の端まで進んだら、地の組織を一往復織り進めます。単純に言うとこの繰り返しですが、大変、手間暇がかかる作業です。
スマックは平織や綴織より丈夫なため、ヤストゥクやチュヴァルなどの袋類を制作する際、 よくこの技法が用いられました。

経糸が表面に見える織

経糸を密に織機に張り、緯糸をいれます。詰まった経糸に緯糸が隠れ、表面には経糸が見えることになります。 テントバンドやジャジムなどのカバーによく見られる技法です。


染めの歴史


染色の歴史は古く、古代エジプトのミイラは、後に防虫効果があることが明らかになった藍や茜で染められた麻布に巻かれていました。
かのクレオパトラは貝紫染めの衣服を愛用し、古代メソポタミアの権力者は、貴重なウコンやサフランで染めたと見られる黄色い布をまとっていたと言われています。

その昔、染めに携わる人々は、尊敬され、その技術は世襲によって受け継がれてきました。しかし、19世紀半ばにイギリスでアニリン染料が発見され、手間暇を要する伝統的な草木染は合成染料に取って代られ、多くの知識は失われてしまいました。残された古い絨毯やキリムの糸を化学的に分析して、染料や染めの技法を特定する試みも行われてきましたが、未だ、多くは謎のままです。

1970年代後半、イスタンブール在住のドイツ人、ハロルド・ボーマー夫妻は、衰退する一方の草木染を再興するべく、マルマラ大学の美術教師、ムスタファ・アスリエルと共に、遊牧民の村々をまわり、昔ながらの手法で糸を染め、キリム・絨毯を制作することを呼びかけます。彼らの熱意が通じ、80年代になって、ドイツ政府から助成金を得ることができ、本格的な草木染復興のプロジェクトが始動しました。この運動は成功を収め、現在では、コンヤやイズミールを始め、トルコ 各地で再び、草木染のキリムや絨毯が織られるようになりました。


染料の種類


草木染は、糸を浸す時間や回数、染液の温度や媒染剤の種類によって、容易に表情が変化するので、染料の特定は、大変難しいのが現状です。
現在、わかっている範囲で、トルコの草木染で使用されている代表的な染料を簡単にご紹介します。

[赤/紫]


トルコの染色材料で代表的なものは、なんといっても西洋茜でしょう。
茜の根に含まれるアリザリンという色素は明礬などのアルミウム塩の媒染剤と結びつき、様々な透明な美しい赤に生まれ変わります。

コチニール
中央アメリカ原産の虫系染料。17世紀メキシコを征服したスペイン人は、コチニール染料を独占し、ヨーロッパ諸国やペルシャに輸出します。18世紀にはカナリア諸島で栽培されるようになり、 トルコには1870年前後に入ってきたといわれています。

ケルメス
イラン原産のケルメス(イラン語で赤の意)樫に寄生するカイガラ虫を原料とする染料。
卵がついた枝ごと採集し熱処理した後、乾燥させ、赤系染料として使用しました。カナリア諸島からコチニールが入ってくるまで、ペルシャから輸入したケルメスが珍重されてました。

アララット・ケルメス
ノアの箱舟伝説で有名なアララット山付近の高原に自生する草につくカイガラ虫の一種。
コチニールと同じ、ケルメスに含まれるカーマイン色素は明礬などのアルミニウム塩の媒染剤と結びつき、赤紫から深紅まで、様々な美しいな赤に生まれ変わります。


[青/紫]


インド藍
インド原産のマメ科の植物。乾燥した葉を発酵させ寝かせ、沈殿したものを染料にする。
扱いが難しく、糸から染めまで全て自給自足でまかなっていた遊牧民も藍染だけは専門の職人に頼みました。
その為、青い色糸はとても高価で、富の象徴とされていました。

大青(ヴァーメシュ)
ヨーロッパ原産の藍草でトルコにも自生している。
古代エジプトやローマ帝国時代に使用されていた青色染料。19世紀にドイツで合成藍が発見され、20世紀初頭にはヴァーメシュから藍をつくる伝統は殆ど途絶えてしまいました 。が、近年見直され、大青で染めた草木染絨毯や、合成藍と併用した塗料も開発されています。


[黄/オレンジ]


紅花(サフラワー)
粉末にした花びらをアルカリ溶液に漬け染液を作る。色が定着しにくく、褪色しやすい。

サフラン(クロッカス)
糸状の雌しべを染料として利用する。大変、高価な染料で代用品としてウコンが使用されていました。

飛燕草(デルフィニウム)
北アフリカ原産の一年草。アナトリア高原にも自生しており、葉、花を乾燥し、染料として使用します。
高い堅牢度とムラのない染着性持ち。茜やコチニール、藍と併用することも多い。

玉ねぎの皮
玉ねぎの一番外側にある赤褐色の外皮を使用して染料をとります。
明礬などのアルミニウム塩の媒染剤を使用します。生石灰媒染で緑がかった黄色をとることができます。

他には、ウコン(ターメリック)、アザミ、ジャスミンの花、カモミール、アプリコット、ピスタチオの葉、ざくろの皮、ぶどうの葉などからも黄色染料を得ることができます。


[茶/黒]


くるみ
葉または緑色の実の外皮を乾燥させ砕いて煮出し、染料をとります。アルミニウム塩の媒染剤を使用。下染媒染剤としても利用されています。

殻に含まれるタンニン成分の色素から茶系の染料がとれます。
お茶や柿にも多く含まれるタンニンは渋のことで、蛋白質と結びつき易い性質を持っています。タンニンの色素は酸化鉄と結びつき、黒になります。歳月に伴い、朽ちてしまうという欠点があります。

タンニンを多く含むブナ/楢の実の殻や栗の皮からも茶の染料をとることができます。
タンニンは水に溶けず、抗菌性、防虫効果があることがわかっています。

黒檀の実からも黒い染料がとれます。


生活用具としてのキリム


そもそもキリムは、遊牧民の暮らしの中から生まれ、発展してきました。
厳しい生活環境を生き抜いてきた遊牧民の女性たちは、敷物だけではなく、袋や揺り籠など、様々な美しい生活用具を製作してきました。


ソフラ/ソフレ
食卓用のキリム。小ぶりのチェイレキサイズか150×150cm前後の正方形のものが多い。
食事を並べたり、正方形のものは小麦粉をこねたり、焼きあがったパンを包んで保管するのに使用されていました。 敷物として使用されていたものではないので、古いものは保存状態の良いものが多い。

ベシック
トルコ語で揺り籠の意。ベシックには、長方形の箱型のもの(コーカサスやイランではマフラッシュと呼ばれています)と、ほぼ正方形の袋状のものと、2種類あります。
箱型のものは、布団や食器など様々な日用品入れに、また移動の際の収納袋として使用されていました。勿論、文字通り、赤ちゃんの揺り籠としても。
正方形の袋は、赤ちゃんのおんぶ紐です。縫い合わされているのは片側の2辺だけで、紐の部分を左右にひっぱり使用します。
スマック織りのものが多い。

チュワル
穀物などを貯蔵する為のの収納袋。移動の際は、家財道具を入れ、らくだや馬に積んで運びました。色糸で美しく装飾されたものが多い。

へイベ
らくだやロバの背にかけて使用する。両端に収納袋がついていて、開け口には、中のものが落ちないようにループと紐がついている。
頑丈にするためか、スマックやジジム織りのものが多い。らくだ用のものは、サイズが大きい。

ヤストゥク
トルコ語で枕の意。チュアルより小ぶりの袋で、中に詰め物をして背もたれクッションとして使用されました。小ぶりサイズなので、塩袋としても使用されていたようです。

ペルデ
テント内の間仕切りやまたは入り口に、カーテンとして使用されていた薄手のキリム。平織りで無地のものが多い。

ツズルック
岩塩や木の実を入れるための口のところが細くせばまった袋。
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